自律神経系の働きとトラウマ

自律神経という言葉を聞いたことのある方は多いのではないでしょうか。自律神経と一般的に呼んでいるものは、1本の神経がずっと伸びてきているものではなく、複数ありますし、途中で枝分かれもしているので、ここでは自律神経系という呼び名を使います。

今日はその自律神経系とトラウマの関係について、簡単に解説していきます。

自律神経系の種類

交感神経系

自律神経系には交感神経系と副交感神経系の2種類があって、私たちが意識しなくてもそれぞれの自律神経系が働いて身体の機能を維持してくれている、というような説明を聞かれたことがあるかもしれません。

交感神経系は朝起きると働きが増して、夜寝る頃には働きが弱くなるというリズムがあります。私たちが日中活動するためには交感神経系が適度に活性化して働いていることが大切で、交感神経系の働きでやる気が出たり頑張ろうという気になります。

副交感神経系

副交感神経系には実は2種類あって、一つは背側迷走神経系(はいそくめいそうしんけいけい)と呼ばれるもの、もう一つは腹側迷走神経系(ふくそくめいそうしんけいけい)と呼ばれるものです。

何それ?聞いたことない!という方もおられると思います。名前も似ているし、何だかややこしそうという印象ですが、トラウマとの関係を理解する上ではとても大切なものです。専門的にはポリヴェーガル理論と呼ばれています。

背側迷走神経系と呼ばれるものは、自律神経系の発達の歴史の中で最も古くからあるもので、消化やリラックスができるように働いています。

腹側迷走神経系と呼ばれるものは、進化の過程で最も新しいもので、人が社会の中で生きていく上でスムーズに人との交流ができるように働いています。また、交感神経系と背側迷走神経系の働きをうまく調整する役割も担っています。

危機的な状況と自律神経系の働き

もし、あなたが銀行の窓口の職員で、急に銀行強盗が入ってきたとしたら、その時どんなことが起こるでしょうか。

サングラスにマスクをして帽子をかぶった、見るからに怪しい人が、ピストルのようなものを出して「動くな、金を出せ」と言ってきたら、危ないと感じたあなたの身体は瞬時に色々な反応をします。心臓がドキドキして血圧が上がり、緊張して身体に力が入るでしょう。

これは交感神経系の働きが活性化した結果起こる反応です。(闘争・逃走反応)

強盗に怪しまれないようにカウンター裏に設置した非常ボタンを押したり、後ろにいる職員に目配せをして緊急事態だということを知らせたりするかもしれません。そういう行動は腹側迷走神経系の働きです。

運悪く強盗の人質になってしまい、ピストルを突きつけられた状態になった時に気絶したとすれば、それは背側迷走神経系が活性化した結果の反応です。(シャットダウン)

このように大変な状況に対処するために、自律神経系はフル稼働します。

トラウマ症状と自律神経系の関係

自律神経系の活性化エネルギー

サバンナで草食動物が肉食動物に追いかけられて、うまく逃げることができた時、草食動物はブルブルと身体を震わせて逃げるために使った交感神経系の活性化エネルギーをリリース(解放)します。

人間の場合は、危機的な状況が終わった後に自律神経系の活性化エネルギーをうまくリリースできなくて、身体的な記憶として溜めてしまうことがよくあります。

溜め込んだ自律神経系の活性化エネルギーがあまりにも大きいと、それがフラッシュバックなどのトラウマ症状として現れたりします。

災害や交通事故、病気や手術などの大きなストレスがかかる状況はトラウマになることがあります。

育ちの中で虐待を受けたり、虐待とまではいかないけれど親が厳しくて子どもらしくのびのびと出来なかった、というような環境があった場合、腹側迷走神経系の発達が不十分になり、自律神経系のバランスをうまく調整しにくくなって、生きづらさを抱えることもあります。

自律神経系の働きを調整するために

自律神経系のバランス調整に役立つことは日常生活の中にたくさんあります。

散歩をする、自然と触れ合う、ペットとの交流、ダンス、ヨガ、歌を歌う、遊ぶ、など自分が心地いいと感じたり、楽しいと感じる活動を積極的に生活の中に取り入れることは、自律神経系のバランス調整に役立ちます。

自律訓練法やマインドフルネス瞑想、呼吸法などは、少し専門的になりますがやり方を覚えると簡単に日常生活に取り入れることができます。

自律神経系のバランス調整がうまく出来ていないように感じることがあれば、自分にとって心地いい、楽しい活動を増やしてみるといいかもしれません。