精神的な病気と暴力

保健センターでの相談の中には家族の暴力的な言動で困っているというものがありました。

精神的な病気がある場合、その病気と関係して暴力的な行動が現れることもあります。周りの人は暴力的な行動で困りますが、そのような行動をしている人も困っているのです。

暴力は困っているというサイン

暴力的になっている人は何らかの理由で困っていて、その困りごとを何とかしたいと暴力という形でSOSを出している場合があります。

どういう困りごとがあるのでしょうか?

幻覚や妄想

精神的な病気の症状で幻覚や妄想が出ている人の中には、幻覚や妄想のために自分が攻撃を受けていると感じて、何とか自分の身を守ろうと必死になった結果、暴力的な行動をとってしまうことがあります。

ご家族からの相談があって訪問した時に、症状で困っている方は険しい表情で警戒したご様子で、「何しに来たんですか、帰ってください」と言われることがよくありました。

その後精神科での治療を受けられて、治療後に会った時にはすっかり穏やかになっておられることもよくありました。そんな時には“まるで別人だ”と感じ、“お薬って効くんだなぁ”と実感したものです。

うつ症状

うつ症状は気持ちが落ち込むものだと思いがちですが、人によってはイライラ感や焦る気持ちの方が大きく出る場合があります。うつ症状に伴うイライラ感が高じて、暴言や暴力的な行動になってしまうことがあります。

したいのに出来ない、わかっているのにどうしようもない、そんな状態で困っている時に周りの方から「こうしたらいいじゃない」とか言われると、わかっているのに出来ないもどかしさを理解してもらえない辛さも加わります。

うつ病の場合は精神科での治療(薬や認知行動療法など)、生活リズムを整えて適度に体を動かすことなどが助けになるでしょう。

言葉でのコミュニケーション

発達障がいや知的障がいのために、言葉でのコミュニケーションがスムーズにいかない場合があります。伝えたいことがうまく伝わらないと、かんしゃくを起こして暴力的な行動になってしまうことがあります。

その方の障がいによりますが、感情的になっている時には静かなスペースでクールダウンの時間を持ってもらうとか、攻撃対象になった人にその場から離れて姿が見えないようにすることで落ち着いてもらうという工夫をするといい場合もあります。

言葉(話し合い)でのコミュニケーションを補うために、絵で書いて理解を助けたりすることが役に立つこともあります。ゆっくりと分かりやすい言葉を使うことがいい場合もあります。

感情のコントロール

育ちの中で虐待を受けてきたり、学校でいじめにあったり、厳しい環境を生き抜いてくると感情のコントロール不全になることがあります。そのためにカッとなると我を忘れて暴力的になる場合があります。

特に身体的な虐待を受けてきた方は、問題解決としての暴力という手段を育ちの中で学んできているので、頭では良くないと理解していても自分の意思より先に身体が反応するということもあります。

アンガーマネジメントを学んで怒りをコントロールする力を身に付けたり、日常生活の中で自己肯定感を育むように心がけたり、自律神経のバランスを整えるような取り組みを続けることが役に立つかもしれません。

困りごとへの対処方法を身につけるために

上にあげたように、困りごとにはいろいろなものがあります。複数のものが混ざっている場合もあります。

まず暴力的な行動の背景にある困りごとが何かを見つけることが第一歩です。

そして周りの方は暴力を受けないことが大切です。周りの方自身を守ることは、暴力的になっている人を守ることにつながります。

困りごとによって対処方法は変わってきますので、それぞれの困りごとに対しての対処方法を見つけていきましょう。
それぞれの困りごとに対して、病状のことなら医療機関、障がいのことなら福祉の窓口や発達相談センターなどで相談してみるのもいいでしょう。