保健所時代に学んだこと②
さまざまな相談への対応
私が担当していた行政の相談窓口には様々な相談が持ち込まれました。
精神的な病気で悩まれている当事者の方からだけでなく、ご家族からの相談や福祉事務所や地域包括支援センターといった他の機関からの相談、時には警察から連絡が入ることもありました。
精神的な病気かどうか、病院受診した方がいいのか、障がい者の福祉サービスを利用したい、障害者手帳を取りたい、こんな症状で困っている、家族の具合が悪いので精神科病院に連れて行きたいのに嫌がるので困っている、近所に迷惑行為をする人がいるので行政の力で強制入院をさせてほしい、等々。とりわけ精神科医療についての相談は多くありました。
困っているからすぐに何とかしてほしい、という切実な声もありました。私が担当していた相談窓口には緊急対応できるような体制はなく、すぐに何とかして欲しいと言われてもどうにも出来ないことの方が多いのが現実でした。
助けてほしいのに助けてもらえない
日本では、どこか身体の具合が悪くなったら病院を受診してお医者さんに診てもらい、必要な検査を受けて状態に合った治療を受けることができるのが当たり前です。
一方、メンタルヘルスの問題についてはどこに病院があるのか分からなかったり、予約していないと診てもらえなかったり、そもそも心療内科や精神科に受診することへの抵抗感が強い方もおられます。
また、受診したけどあまり話を聞いてもらえなかったという声を耳にすることもありました。先生はあまり話を聞かずに薬ばかり出す、といった不満を聞くこともありましたが、精神科の治療については誤解されている部分も多いと感じます。
精神科医療の実際
今の一般的な精神科の治療は、症状を薬でコントロールする薬物療法が主流です。病院や一部のクリニックでは、デイケア・リワークプログラムなどの集団治療をしています。心理士によるカウンセリング(保険適用外が多い)を受けられるところは少数で、医師が時間をかけてカウンセリングすることはまず無いと考えた方が無難でしょう。
病院に行けない人への往診をしている精神科の医療機関はかなり少なく、高齢者施設専門に往診しているところに問い合わせたところ、一般家庭への往診はしていないと言われたこともありました。
全てではありませんが、相談に来られている方の医療ニーズと実際に医療機関で提供できるものが噛み合っていない現状がありました。それは医療機関側に何か問題があるというよりも、日本の医療体制であったり、医療者を養成するための教育の問題のためだったりします。患者さんの満足度が上がることであっても、保険点数に反映されていないことを医療機関が取り入れるには難しさがあります。
仕事を通して出会った精神科医の先生方は、患者さんの回復を願い、一生懸命に治療をされている方が多かったと思います。担当している患者さんに対する担当医としての責任感も強く、本当に患者さんのことを思っておられるのだなぁと感じることはよくありました。
一方で診察の中で大切な助言をしておられるのに、それが患者さんにうまく伝わっていないのでもったいないと思うこともありました。そういうことが相談の中で分かると、先生が言われたことの意味を補足説明しながら解説することもありました。
精神科領域で大切なこと
精神科領域では、病気になったから病院に行って治療を受ければ問題解決だ、と単純に言えないことがしばしばあります。
病気のために生活(経済面、日常生活面など)に支障が出ることも多く、それらは医療の範囲を越えた問題です。その方に合った制度を活用しながら、生活面での支障を減らしていく支援は、精神保健福祉士が関わる部分になります。
病気があってもちょっとした支援で生活しやすくなり、その人らしさを発揮して充実した毎日を送っている人たちを見てきました。上手に制度を利用することで生活の質は変わります。
“制度”と“制度を利用すると助かる人”の橋渡しをするのは、精神保健福祉士(精神科病院の相談員など)の得意分野です。そのことを知らない人はたくさんおられると思います。
このコラムを読んでくださったあなたやあなたの周りの方で、何か制度が利用できないだろうかと思われたら、ぜひ近くの精神保健福祉士を探して相談してみてください。